ジョン・デゲンコルブとは
基本情報
ジョン・デゲンコルブ(John Degenkolb)は、1989年生まれドイツ出身のロードレース選手です。2008年にテューリンカー・エネルギー・チームと契約し、プロデビューをしました。数々のチームを経て、現在はトレック=セガフレードに所属しており、超一級のスプリンター・パンチャーとして活躍しています。
グランツールでの主な成績
デゲンコルブは、特にクラシックレースと得意としています。デビュー以来、クラシックレースとグランツールではこのような成績(優勝)を上げています。
2012 | ブエルタ・ア・エスパーニャ 第2,5,7,10,21ステージ |
2013 | パリ~ツール |
2014 | ヘント・ウェベルヘム |
2014 | ブエルタ・ア・エスパーニャ |
2015 | パリ~ルーベ |
2018 | ツール・ド・フランス 第9ステージ |
デゲンコルブを襲った大事故
トレーニング中の自動車との衝突
2016年、デゲンコルブは、ジャイアント=アルペシンのチームメンバーとスペインでトレーニングを行っている最中に、逆走してくる自動車と衝突するという大事故に遭いました。彼は大腿、前腕、唇そして腕の骨折、さらには、もう少しでひとさし指を切断するという大怪我を負い、シーズンの大半を棒に振る結果となりました。
デゲンコルブの指に残った後遺症
この衝突事故での怪我では、特にひとさし指の怪我はかなりの重症であり、筋肉や神経の縫合をする大手術を行いました。指にはしばらく後遺症が残っていたため、レース復帰後もサポーターをつけてほとんど曲がらない指をかばいながら走る姿がみられています。
コンマ数秒の世界を争うスプリンターがひとさし指を失いかけるなんて、選手生命が危ぶまれる大怪我です!
トレック=セガフレードへの移籍
2017年、デゲンコルブはジャイアント=アルペシンからトレック=セガフレードに移籍しました。指の怪我が完治していないなかで、トレック=セガフレードは彼に3年契約を提示するという破格の条件での移籍でした。ロードレースのスーパースターであるファビアン・カンチェラーラの引退と入れ替わるようにトレックに招かれたことからも、トレックが感じた彼の将来性に対する期待はかなりなものだったと思われます。
2019年9月現在トレック=セガフレードには、日本を代表するロードレーサーである別府史之も所属しています。2018年のジャパンカップクリテリウムでは、デゲンコルブが別府選手のサポートもしていました。
大事故を克服して奇跡の復活
2018年ツール・ド・フランス第9ステージ
トレック=セガフレードに移籍したデゲンコルブは、チームからの期待に応えるように2017年のドバイツアーでキッテルに勝利をあげるなど、徐々にその調子を上げてきました。そしてついに、デゲンコルブはツール・ド・フランスで自身の復活を世界に見せつけたのでした。
石畳での激闘
デゲンコルブが大事故を乗り越えてその強さを再び世界に見せつけたのは、2018年のツール・ド・フランス第9ステージでした。この第9ステージは「北の地獄」や「クラシックの女王」と呼ばれ、150kmを超えるステージのなかで石畳が20km以上もあるという、非常にハードなステージです。このため、落車やメカトラブルが相次ぎ、多くの選手がステージ優勝よりも走り切ることに必死であったといわれています。
ステージ優勝で奇跡の復活を証明
このステージの終盤、ステージ優勝を争ったのが、マイヨ・ジョーヌのグレッグ・ヴァン・アーヴェルマート(BMC)、ベルギーチャンピオンのイブ・ランパート(クイックステップ・フロアーズ)、そしてトレック=セガフレードのジョン・デゲンコルブの3人でした。三つ巴のスプリントでデゲンコルブは二人をねじ伏せ勝利し、自身の完全復活を証明しました。
完全復活に男泣き
特別な想いをもって挑んだツール・ド・フランスでステージ優勝を果たしたデゲンコルブは、インタビューで大粒の涙を流しながらこのように答えました。
「ずっと長い間この勝利を求めていたんだ。この勝利は、冬に亡くなった親友にささげる。事故に遭った後、多くの人は、あいつは終わったと言っていた。しかし、自分は信じ続けていたし、親友のために大きな勝利を求めていたんだ。とても嬉しい」このよう語った彼は、相当なプレッシャーを跳ね除けて、最も過酷なレースで勝利することで完全復活をアピールしたのでした。
デゲンコルブが勝利を手繰り寄せたterkのバイク
デゲンコルブがツール・ド・フランスで劇的な勝利をあげたのは、彼自身の体力、精神力、そして戦略力はもちろんのこと、最新技術が駆使されたバイクにも秘密がありました。
trek ドマーネ SLR
現在デゲンゴルブが使用しているバイクはtrekの「ドマーネSLRディスク」です。ドマーネ(Domane)は、「最速」を目指すための空力構造に加えて、「快適さ」を確保するため、振動吸収性を自在にコントロールする独自の技術が使われています。デゲンコルブが石畳ステージを駆け抜けて勝利したのは、この技術に秘密があるのです。
石畳を走り切る新構造"IsoSpeed"
trekのドマーネには、IsoSpeedという振動吸収構造が使われています。IsoSpeedは、ファビアン・カンチェラーラとtrekが共同開発した新しい振動吸収構造です。下のふたつの画像をみると、シートポストとフロントフォークがそれぞれ分割されていることがわかります。
これは、従来のエラストマーやサスペンションで振動吸収する機構とは異なり、シートチューブをトップチューブから分離させることで、路面からの振動に従いシートチューブをしならせるようになっています。さらに、スライド構造で振動吸収性能を路面に合わせて調整できるようになっています。
強烈な振動を受けながら走るパリ~ルーベやツール・ド・フランス2018第9ステージの石畳区間で勝利した要因は、ドマーネの持つこの構造が一役買っていたのは間違いないでしょう。
サイクリストの安全への提唱
デゲンコルブは強い走りで輝かしい勝利を得るだけではなく。自身の事故の経験を通して、trekと共にサイクリストへの安全を提唱しています。それが「ABCセーフティー」です。具体的には、
- A: Always on…いつでも前後のライトを点灯させよう。
- B: Biomotion…体の動くパーツを目立たせよう。
- C: Contrast…背景との対比
デゲンコルブのこのメッセージは、他人事だと思わずにすべてのサイクリストが心に留めておかないといけませんね。
2019年以降のデゲンコルブの活躍は?
2019年においてもデゲンコルブの活躍は止まらず、ツール・ド・ラ・プロヴァンス2019での区間優勝、ヘント~ウェヴェルヘムでは2位などの成績を残しています。しかし、ツール・ド・フランス2019でも活躍が期待されていたデゲンコルブでしたが、ツールには選外となりました。その理由がトレック=セガフレードからベルギーのチームであるロット・スーダル(LOTTO SOUDAL)への移籍を決めたことであるといわれています。
ロット・スーダルのチームバイク「RIDLEY NOAH FAST」
ロット・スーダルは、以前には圧倒的な強さを誇ったスプリンター、アンドレ・グライペルを擁したチームで、2020年にも移籍するのではないかと噂されています。デゲンコルブといえばトレック、そしてドマーネというイメージが強いですが、移籍を決めてロット・スーダルのバイクであるリドレーに乗り換えて活躍するのでしょうか? 今後の動向に要チェックです。
まとめ
一時は選手生命を失うほどの大事故に遭いながらも、必ず勝利を手繰り寄せるジョン・デゲンコルブの生き様は多くのサイクリストに勇気と感動を与え続けています。また、執筆時点の最新レースであるブエルタ・ア・エスパーニャ2019ではアシストとしてもトレック=セガフレードの活躍を支えています。まだ30歳、脂がのった彼の走りはこれからも見逃せません!
(画像はイメージ)