アルカンシェルとは
アルカンシェルとは、UCI(国際自転車競技連盟)が開催する国別対抗の世界選手権大会の優勝者に与えられるジャージのことです。白いジャージの胸回りと袖、襟に5色のストライプが入っていることから、フランス語で虹を意味するアルカンシェルの名が付きます。英語でレインボージャージとも呼ばれますが、通常はアルカンシェルが一般的です。
世界王者の証
アルカンシェルを獲得した選手は、その年の世界チャンピオンとして一年間このジャージを着てレースに出場しなければなりません。王者として敬意を表される半面、どのレースでもよく目立つので常にマークされる存在です。また過去に一度でもこのジャージを獲得したことのある選手は、その後も通常のチームジャージの袖や襟にレインボーをあしらうことができます。
種目ごとに存在するアルカンシェル
アルカンシェルは一つだけではありません。UCIの大会は数多くの自転車競技があり、ロードレース以外にもタイムトライアル、シクロクロス、マウンテンバイク、BMXやトラック競技など多岐にわたります。またそれぞれに男女別、種目によっては年代別カテゴリーがあるため、たくさんの選手がアルカンシェルを着ることになるのです。
- 2020年度の主な世界チャンピオン
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
着用できるのは自分が獲った種目のみ
アルカンシェルは自分が獲得した種目でしか着られません。ロードレースでも通常はロード王者がアルカンシェルを着ますが、ステージレースに含まれるタイムトライアルステージでは個人タイムトライアル王者がアルカンシェルで出走します。
アルカンシェルの由来と経歴
アルカンシェルの歴史はとても古く、UCIが発足して世界選手権の主催者になった1900年から登場しています。当時はトラック競技のみでしたが、1921年からはロードレースが、1950年からはシクロクロス、1990年にマウンテンバイクが行われるようになっています。
なぜレインボージャージ?
- なぜ世界チャンピオンのジャージが虹色のデザインになったのでしょうか。これは緑、黄、黒、赤、青の5色が世界の五大陸を表しており、その頂点に立つ選手であることを意味しているからです。ちなみに日本では虹は7色ですが、フランスやドイツなどでは5色とされています。
アルカンシェルの評価
世界選手権で優勝することは自転車選手全ての憧れです。もちろんオリンピックの金メダルも大変な名誉ですし、ロード選手にとってはツール・ド・フランスのマイヨジョーヌは究極の目標です。しかし、UCIの世界選手権で勝つことは、選手にとってはそれらと同等かそれ以上の価値があります。
どんな名誉があるの?
自転車の盛んなヨーロッパ、特にベルギーやイタリア、フランスなどでは、世界チャンピオンは尊敬と称賛の的です。アルカンシェルを獲得した選手は地元のレースや競技場に自分の名前を入れられるなど、長きにわたって功績と名誉を称えられます。そのためヨーロッパでは、アルカンシェルはオリンピックの金メダルよりも価値があると思う人が多くいるのです。
アルカンシェルを獲得した有名選手
アルカンシェルを獲得した選手は、その後の自転車界で大きな業績を残したり、注目を集めている選手がたくさんいます。ここではその中でも特に有名な選手を紹介します。
過去の名選手
エディ・メルクス(ベルギー)
世界で一番強い自転車ロードレース選手といっても過言ではありません。勝利数は史上最多の525勝、ツール・ド・フランス総合優勝5回(最多タイ)その他ありとあらゆるレースで優勝を収めた巨人です。世界選手権は3度優勝しており、中でも1974年にはツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリアと合わせて同じ年に3冠を達成しています。
グレッグ・レモン(アメリカ)
アメリカ人として初めてツール・ド・フランス総合優勝を成し遂げた選手です。世界選手権は1983年と89年に2度アルカンシェルを獲得しています。伝統的なヨーロッパ流のサイクルロードレース文化になじめず衝突することもありましたが、彼の活躍はその後の選手にも大きな影響を与えています。
ファビアン・カンチェラーラ(スイス)
個人タイムトライアルで4度のアルカンシェルを獲得したスピードマンです。その並外れた独走力を活かしてロードレースでも活躍し、数多くのクラシックレースやステージレースで勝利を重ねました。圧倒的な走りと端正なルックスで日本での人気も高く、「スパルタクス」のニックネームで親しまれました。
ジャニー・ロンゴ(フランス)
女子自転車競技で歴代最多の13回優勝を誇る選手です。ロードレース、個人タイムトライアル、トラック追い抜きと複数の種目で活躍を見せ、59歳まで現役を続けました。
現役選手
マリアンヌ・フォス(オランダ)
現役の女性選手では最高の成績をあげている選手です。世界選手権ではシクロクロス7回、ロードレース3回、トラックレース2回の優勝を飾るなど、ジャンルを問わない強さを誇ります。現在はロードレースをメインに活動し、チームのエースとしてビッグレースでの優勝を重ねています。
マテュー・ファン・デル・プール(オランダ)
現在自転車界で最も注目を集めている選手と言っていいでしょう。シクロクロスでアルカンシェルに4度、MTBでも欧州王者に輝き、ロードレース参戦後も数々のビッグレースで劇的な勝利を収めています。今年のツール・ド・フランスでもマイヨ・ジョーヌを獲得し、東京五輪にはMTBで出場するシクロクロス世界王者。その底知れぬ能力への期待は高まるばかりです。
ニノ・シューター(スイス)
マウンテンバイクのクロスカントリーで実に8回のアルカンシェルを獲った絶対王者です。どんな地形やコースにも対応でき、スプリント力にも優れているため、常に安定した強さを見せています。リオデジャネイロオリンピックの金メダリストでもあり、東京での連覇を果たせるかが注目です。
ぺテル・サガン(スロバキア)
ツール・ド・フランス総合ポイント賞7度獲得を誇る、現在自転車界で最も人気のあるスーパースターです。ロードレースのアルカンシェルは3回が最多で彼を含め5人いますが、3連覇は彼ひとりだけです。まだ31歳と若いので、史上最多となる4度目のロード世界王者にも期待がかかります。
日本人のアルカンシェルはいるの?
では日本人でアルカンシェルを獲った選手はいるのでしょうか。実はいるのです。ロードレースではまだまだ世界との差が大きい日本ですが、トラック競技での実力は世界でも引けを取りません。最も有名なのが1977年にスプリントで世界王者に輝いた中野浩一さんで、その後1986年までなんと10連覇を達成します。
現役の日本人アルカンシェル!
2021年時点でアルカンシェルを保持している日本人選手は、女子オムニアム競技の2020年大会で優勝した梶原悠未選手です。オムニアムはトラックの中でもよりロードレースに近い中距離の種目であり、この分野での優勝は日本人では初の快挙です。梶原選手は現在筑波大学大学院に在籍する若い選手なので、今後さらなる活躍が期待されます。
- 日本人のUCI世界選手権優勝者(パラサイクリングを除く)
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
レース観戦はアルカンシェルに注目!
自転車競技の世界で圧倒的な存在感のアルカンシェル。その鮮やかな色合いのジャージはまさに5大陸に君臨するチャンピオンの証です。今年のUCI世界選手権は9月にベルギーで行われるロードレースをはじめとして、各種目で強者が覇を競います。世界王者はその年の「顔」としてレースでの中心的存在となり、その栄誉は長く称えられます。来年のアルカンシェルに輝くのは誰なのか、今から目が離せません。