SRAM(スラム)とは
SRAM(スラム)は、1987年にアメリカのシカゴで創業された自転車パーツメーカーです。もとはMTB用のコンポーネントやパーツを専門に作っていましたが、その後ロードバイクにも進出。現在では日本のシマノ、イタリアのカンパニョーロに続く第三のロードバイクコンポーネントブランドとして知られるようになりました。
世界を驚かせたワイヤレス変速
SRAMが一躍脚光を浴びることになったのが2015年。世界初の無線による完全ワイヤレス電動変速機を発表し、業界を驚かせました。また他のライバルメーカーに先立って、いち早くリアスプロケットの12速化を導入したのもSRAMです。こうして高い技術力と従来の枠にとらわれない先進性を武器に、SRAMはロードバイクの世界でも存在感を増してきました。
トッププロでも活躍
ロードレースの世界では現在でもシマノが圧倒的なシェアを誇り、その後にカンパニョーロが続きます。現在まだまだ少数派のSRAMではありますが、その実力の高さが認められるにつれSRAMを採用するチームも増えています。現在ワールドチームでは、モビスターとトレック・セガフレードの2チームがSRAMを搭載したバイクで戦っています。
SRAMコンポーネントの特徴
ロードバイクのコンポーネントは、各メーカーごとに全く違う特徴を持っています。ではSRAMにはどんな特徴があるのでしょうか。
特徴①独特の変速方法
SRAMが他の2種類と大きく違うのはその変速方法です。シマノのSTIレバーとカンパニョーロのエルゴパワーは変速レバーが左右に2つずつ付いていますが、SRAMは1つしかついていません。また変速方式が電動か機械式かでも全く違うのがSRAMの独特な点です。
電動式の変速方法
- 左レバー:リアのシフトダウン(ギアが軽くなる)
- 右レバー:リアのシフトアップ(ギアが重くなる)
- 両シフター同時:フロントギア変速(押すたびにアウター↔ローが切り替わる)
機械式の変速方法
- 右レバー:普通に押す→リアのシフトアップ(ギアが重くなる)/奥まで強めに押す→リアのシフトダウン(ギアが軽くなる)
- 左レバー:普通に押す→フロントギアがローに落ちる/奥まで強めに押す→フロントギアがアウターに入る
特徴②無線式電動変速
SRAMの代名詞とも言えるのが無線式電動変速。シマノの新型Dura-Aceが未発表の2021年6月現在では唯一の完全ワイヤレスです。前後のディレイラーにそれぞれ独立したバッテリーを備え、ワイヤレスなので抵抗も少なくハンドリングもスムーズ。電動コンポ特有の断線の心配もありません。独自の無線帯域を使っているので他のWi-Fiの影響を受けにくいのも特徴です。
SRAMコンポーネントの種類
では次にSRAMのコンポーネントの種類をグレード別に見ていきましょう。SRAMはMTB(マウンテンバイク)のコンポーネントの方が有名ですが、この記事ではロードバイク用のコンポーネントに絞って紹介します。
RED
SRAMの最高グレードに位置するシリーズです。無線電動変速モデルはハイエンドのRED eTap AXS(アクシス)とRED eTapに分けられ、RED22は電動ではない機械式のコンポとなっています。
RED eTap AXS
SRAM最上位モデルです。コンパクトなチェーンリングの「X-RANGE」や10Tのトップギアが使える「XDR」、完璧なチェーン制御の「オービット」など、快適で効率的な操縦を追求した最新技術が投入されています。
- 無線電動変速
- 12速
- リムブレーキ/ディスクブレーキ
- 価格:333,300円(税別)油圧Discブレーキ、フロントダブル仕様グループセット(クランク・カセット・チェーンを除く)の場合
- 重量2235g
RED eTap
AXSに次ぐワイヤレス変速の上位モデル。X-GlideチェーンリングとYAWテクノロジーでスムーズな変速を実現させています。
- 無線電動変速
- 11速
- リムブレーキ/ディスクブレーキ
- 価格:269,400円(税別)油圧Discブレーキ、フロントダブル仕様グループセットの場合
FORCE
SRAMのセカンドグレードがFORCEシリーズです。こちらはシリーズ最上位モデルのFORCE eTap AXSのみが無線電動変速で、機械式のFORCE22とそのフロントシングルギア採用モデルであるFORCE1がラインナップされています。
FORCE eTap AXS
REDに次ぐグレードですが、X-RANGEやXDRなどほとんどの機能はRED eTap AXSと同じです。チェーンリングの構造やパーツの素材、デザインを変えて価格を抑えています。またRED eTap AXSと比較して2〜300gほど重量が増えています。
- 無線電動変速
- 12速
- リムブレーキ/ディスクブレーキ
- 価格:266,800円(税別)油圧Discブレーキ、フロントダブル仕様グループセット(クランク・カセット・チェーンを除く)の場合
- 重量2,509g
RIVAL
RIVALはより幅広いユーザー向けのミドルグレードシリーズで、シマノ105に相当するコンポの位置づけです。これまで電動変速はありませんでしたが、今年の春にリア12速の無線電動変速であるRIVAL eTap AXSが発表され、105を凌駕する存在へと躍り出ました。こちらも機械式はRIVAL22とフロントシングルギア採用モデルのRIVAL1からなります。
RIVAL eTap AXS
ワイヤレスコンポの中では最廉価のモデルです。RIVALは新たに専用の設計がなされており、握りやすいコンパクトなブラケットになっています。上位2機種と比較して素材にアルミを多用したり、細かな機能が省略されてコストを抑えています。とはいえ多くのパーツがRED、FORCEと互換性があり、基本的な規格が共通しているので全く不満なく使えるでしょう。
- 無線電動変速
- 12速
- 油圧ディスクブレーキ専用(リムブレーキモデルはなし)
- 価格:パーツごとの販売。フルセットでの参考199,067円(税込)
- 重量2,783g
APEX
APEXはSRAMのロードバイクコンポではエントリーグレードとなる最廉価モデルです。電動変速はなく、10速・機械式のAPEXとリア11速/フロントシングルのAPEX1があります。ディスクブレーキ対応タイプもあり、フラットバーシフターもラインナップされているのが特徴です。
SRAMのコンポーネントは何がすごい?
ロードバイクコンポーネントとして比較した場合、SRAMのどういう所が優れているのでしょうか。電動変速のワイヤレス化以外にも、さまざまな長所があります。
長所①軽量さ
SRAMの優れている点としてあげられるのが軽量さです。リムブレーキのセットで比較すると、SRAM RED eTapはデュラエースのDi2より約98g軽量になります。SRAMではチェーンリングやカセットスプロケットの一部を、別々に成形せず金属の塊から削り出しています。カーボンパーツも積極的に利用され、先行する2大メーカーに対抗するための軽量化に余念がありません。
長所②効率的なギア構成
SRAMと他のコンポーネントの最大の違いはオフロードのギア構成をロードバイクに取り入れたことです。AXSシリーズからの新技術「X-RANGE」はフロントチェーンリングが12速に最適化され、いずれも大小の歯数差が13と通常より減っています。またフリーハブの「XDR」規格は、トップ10Tという小さなリアスプロケットを可能にして、より脚の負担を抑えたスムーズな変速が可能になります。
ギア構成の効果は?
AXSシリーズのフロントギアは他のメーカーよりやや小さめで、アウターで重いギアを踏むライダーには一見物足りなく感じるかもしれません。しかしリアのトップが10Tと小さければそれだけ強く踏むことができます。逆にリアはスプロケットが最大33T(RIVALは36T)まであるので、軽いギアならより1:1に近いギア比で回せます。つまりX-RANGEの構成の方が重い方も軽い方も充実するのです。
長所③互換性の高さ
コンポーネント間の互換性に優れているのもSRAMの特徴です。無線通信に直接関係ないブレーキやチェーン、スプロケットはSRAMの別グレードと組み合わせられます。電動のAXS同士ならMTBコンポーネントとの互換性もあり、グラベルロードにMTB用のEagle AXSのギアを付けるといったカスタマイズも可能です。
実はシマノでも使える?
全てではありませんが、SRAMのパーツの一部はシマノ製品と組み合わせて使えるものがいくつかあり、シマノとの互換性が高いのが特徴です。特にホイールは多くの製品で「シマノ/スラム」用と「カンパニョーロ」用の2種類で販売されています。シマノ/スラム対応ホイールであれば、ホイールを買い替えることなくSRAMコンポに付け替えができます。
SRAMコンポーネントはこんな人におすすめ
とても個性的かつ機能的なSRAMですが、どんなライダーに向いているのでしょうか。ここまであげた特徴やメリットをふまえて、次のような方にぜひSRAMをおすすめしたいと思います。
おすすめ①ヒルクライム本格派
ヒルクライムに本気で取り組む方ならSRAMは最良の選択肢のひとつです。コンポ自体が軽量なうえ、AXSの「X-RANGE」でチェーンリングも小さくなりました。最大36Tものワイドギアを選べばより軽いギア比で走りやすく、変速もスムーズなので上りでこそ絶大な効果を発揮します。
アプリとwebサービスでさらに便利に
AXSアプリのEnhanced Modeには、前後が最適なギア比に自動でシフトチェンジする機能があります。AXSウェブサービスと併用すれば坂道で自分がどれくらいのギヤ比を使って走っているかが視覚的に分かるので、ひんぱんにシフトチェンジを行うヒルクライムでは最適な機能です。1分でもタイムを縮めたい方なら使わない手はありません。
おすすめ②グラベルやオフロードも楽しみたい人
現在ではロードバイクの楽しみ方が多様化し、舗装路もオフロードもこなせるモデルがブームになっています。SRAMならフロントシングルやMTBのコンポーネントとの互換性もあるので、オフロードバイクとして使いたい方におすすめです。世界王者マテュー・ファン・デル・プールの活躍により、シクロクロスでもSRAM搭載バイクが注目を集めています。
おすすめ③アメリカブランドのロードバイクを買う人
アメリカブランドのSRAMは、トレックやキャノンデール、スペシャライズドといったスポーティな機能美を持つアメリカ製のロードバイクにぴったりです。これらのブランドではSRAM搭載バイクもラインナップされています。またオンラインでバイクを直販しているキャニオンではメーカーサイトでSRAMを選択できます。
SRAMコンポーネントで新しい操作体験を
ロードバイクコンポーネントの世界で頭角を表し始めたSRAM。知名度や販売網が少なく、価格の高さも普及のネックでしたが、電動変速機の一般化やグラベルロード人気というトレンドに乗って、その注目度はさらに高まっています。山が多く変化に富んだ日本の地形は、SRAM搭載バイクが活躍する絶好の舞台です。SRAMを載せて新しいロードの世界へ踏み出しましょう。
SRAM同士でも、必ずしも全てのコンポが無条件に適合するわけではありません。特にAXSシリーズと組み合わせる際には注意が必要です。