変速機の不調は突然やってくる
多くの自転車には、適度な力加減でペダルを踏み込めるように変速機能が搭載されています。ハンドルやブレーキといった走行に必須な機能ではないのですが、変速できなくなると坂道を登りにくくなるでしょう。変速の調子が悪くなる原因はいろいろで、ある日突然変速しなくなってしまうこともあります。今回は、シマノ製変速機を例に基本的な機能について紹介していきます。
自転車の変速機とは
坂道で軽いローギアに変速してペダルを軽く踏む、平地で重いトップギアに変速してスピードを上げる、と状況に合わせてペダルを踏み込む力を変更できる装置です。変速機は、構造の違いでいくつかの種類に分かれます。
種類①内装変速
通学や買い物などで使用される、通称ママチャリと呼ばれる自転車の変速機は、ハブと呼ばれる部品の中にギアが組み込まれているものが主流です。3段または5段変速のものが多く、チェーンとベルトの2つの駆動方法があります。ハンドルの右手側に変速レバーが付いているものや、右側のグリップを回して変速するものがあります。メンテナンスフリーとまではいかないのですが、不調になりにくいのが特徴です。
種類②外装変速
チェーンで駆動し、後輪の中央に何枚もギア(スプロケット)が付いているのが外装変速機です。内装変速よりギアの数が多く、1番軽いギアと1番重いギアの差が大きくなっています。シマノ製ロードバイク用では最多で前2段、後ろ11段の22段変速のものから、ママチャリでは後ろのみ6段、または7段変速が主流です。ギアの数や車体の形によりシフトレバーは様々な形をしていますが、ディレイラーと呼ばれる部品で変速をおこない、その構造はほぼ同じです。快適に乗り続けるためには、定期的な整備が必要です。
変速の方法が違う
内装変速機と外装変速機は変速の方法に違いがあります。内装変速機で変速するときは、ペダルを踏み込むのをやめてギアに力が掛かっていない状態で変速をおこなうようにします。反対に、外装変速機はチェーンが動いていないと変速できない仕組みになっているので、軽くペダルを踏み込みながら変速してやる必要があります。
変速機不調の症状と原因
変速しない
シフトレバーを操作しても、ギアが変速しない場合、シフトワイヤーの切断が考えられます。シフトレバーがスカスカの状態になる、重いギアになっている、などの症状が出ます。シフトレバーの動きが悪く、「カチッ」と確実に動作しないときは、シフトワイヤーのサビや劣化による固着が考えられます。重いギアに変速しても変速が完了するまでに時間がかかる症状が発生します。
1速に入らない
1速(ロー/一番軽いギア)にギアが入らない、または変速はしても2速に戻ったり、ギアとチェーンが接触して異音を発生したりする場合、原因としてシフトワイヤ―の緩み、または、ロー(L)調整ボルトを締めすぎていることが考えられます。自転車を納車してすぐ、またはシフトケーブルを交換してすぐに発生しやすい症状です。
変速機の不調の確認・調整方法
不調の確認・調整方法①内装変速機
シマノ製内装変速機は、シフトワイヤーの取り付け方が異なる2種類の変速機があり、それぞれ確認と調整方法が違います。見分け方は、ハブの右側に樹脂のカバーがあるものと、ハブに沿うようにシフトワイヤーが見える、といった異なる特徴があるので外観で区別できます。
内装変速機①
カバー付きの変速機の場合、プラスドライバーで固定用ビスを緩めてカバーを外すと、変速用のロッドがあります。シフトレバーを操作して、ロッドにあるマークと変速機ケースが一番近くなるギアにします(3段なら2速、5段なら4速あたり)。このとき、変速機ケースよりロッドのマークが外側にあれば、シフトワイヤーが緩んでいる。マークがケースの内側に入ってしまい見えない場合はケーブの張りすぎです。
調整方法
調整するときは、アウターケーブルの固定ナットを緩め、変速機ケースとロッドのマークが一直線になるように調整ナットを回して合わせます。確認のため何度か変速をおこなったあと、もう一度マークの位置を確認して、ずれていなければアウターケーブルの固定ナットを締め、カバーを付けて調整完了です。
内装変速機②
ケーブルが変速機に沿っている内装変速機の場合、真上から変速機を覗くとのぞき窓があり、中に小さなマークのある場所が見えます。変速すると内部の部品が動いて大きなマークが出てくるギアがあるので、のぞき窓を見ながら変速してマークの出るギアにします。大きなマークのギアに変速した状態のとき、2つのマークが一直線になっていれば正常です。
シフトレバーのアウターケーブル付け根に調整ダイアルがあるので、ダイアルを回してマークを一直線に合わせます。何度か変速して、きちんと変速すれば調整完了です。
不調の確認・調整方法②外装変速機
外装変速機は、自転車の種類によって、ギアの数が異なりますが、構造は共通しています。内装変速機のように目印に合わせて調整というわけにはいかないので、様子を見ながら少しずつ調整する必要があります。また、ディレイラーはクランクを回してギア(スプロケット)とチェーンが回転していないと正常に作動しないので、リアタイヤを浮かす必要があります。
前に変速機があると難易度が上がる
ロードバイクやクロスバイクは、フロント(クランク)に2段、または3段のギアがあります。フロントディレイラーでクランク側、リアディレイラーで後ろのギア(スプロケット)の変速をおこないます。フロントとリアのギアが複合して変速するので、変速が不調になったときの調整もシビアになります。ロードバイク用のフロント2段、リア11段変速などは、知識と経験がないと十分な性能を発揮できない場合もあります。
部品のずれを確認する
最初にギア(スプロケット)とディレイラーに付いているプーリ―(小さなギア)の位置を確認するため、トップギア(1番重いギア、下の写真は7速)に変速しておきます。後ろから変速機を確認し、トップギアとプーリーが一直線になっているか確認します。
次に、ローギア(一番軽いギア/1速)に変速して、同じように後ろからギアとプーリーが一直線になっているが確認します。
ギア(スプロケット)とプーリーがずれている場合は調整が必要です。ただし、ディレイラーの調整ボルトは、自然に緩むことはほとんどありません。転倒などが原因で、ディレイラーハンガーが変形したため、ずれた可能性があります。変速機のどこに異常があるのか、きちんと判断をすることが重要です。
部品のずれを調整する
ギア(スプロケット)とプーリーの位置調整はディレイラーの調整ボルトを回して調整します。トップギア(7速)とプーリーの位置調整は、ギア(スプロケット)よりプーリーが左にずれているときは、ハイ(H)調整ボルトを反時計周りに、右にずれているときは時計回りに回して調整します。ローギア(1速)とプーリーの位置調整はロー(L)調整ボルトを回します。ギア(スプロケット)よりプーリーが左にずれているときは、調整ボルトを時計回りに、右にずれているときは、反時計回りと、回す方向が逆になります。
きちんと変速するか確認する
ギアとプーリーの位置が正常である確認ができたら、クランクを回しながらローギアからトップギアへとシフトアップしていきます。次は反対にローギアへとシフトダウンさせます。何度か往復させて、すべてのギアに変速できるか、シフトアップした場合とシフトダウンした場合、どちらがうまく変速しないのか確認します。
シフトダウンのときにうまく変速しない場合、ワイヤーのたるみが原因であることが大半です。シフトのアウターケーブル調整ダイアルを反時計方向に回してワイヤーを張ります。調整ダイアルを回すときは、クランクを回しながら1クリックづつ回し、変速して様子を見ます。このとき、初めの位置からどれだけダイアルを回したか、把握しながら回すことが重要です。
調整ダイアルは反時計方向に回しすぎると外れてしまいます。緩めすぎないよう注意が必要です。アウターケーブル調整ダイアルを、ある程度回してもシフトダウンがうまくいかない場合、ワイヤーの固定ボルトを緩めて、ワイヤーの張り調整を最初からやり直す必要があります。しかし、1度ワイヤーを完全に緩めてしまうと、アウターケーブル調整ダイアルだけで調整することはできなくなる可能性が高いので、どうにもできなくなる前に修理に出すことも考えましょう。
シフトアップがうまく変速しない場合、ワイヤーの張りすぎが原因です。しかし、何もしないでワイヤーが張り過ぎになることはまずありません。ディレイラーハンガーの変形、またはシフトダウンの調整をしていてワイヤーを張り過ぎた可能性があります。
「どちらもおかしい」は要注意
シフトアップ、シフトダウン、どちらに変速してもうまく変速しないときは、スプロケットを揺すってガタがないか確認してみます。ガタがあるときは、スプロケットの固定ナットが緩んでいる可能性があります。スプロケットの固定ナットの締め付けは専用工具が必要なので、自転車屋さんで点検、修理してもらいましょう。
変速機のメンテナンス方法
スムーズな変速を維持できるようにチェーンとスプロケット、クランクのギアは日頃からメンテナンスをしてあげる必要があります。特にチェーンとスプロケットはゴミの付着や油膜切れが発生しやすいので、こまめに掃除と注油をしましょう。一番簡単なのは、パーツクリーナーを吹きかけてからペーパータオルや布で汚れをふき取ります。チェーン全体が綺麗になったら、チェーン用オイルを注油し、余分なオイルをペーパータオルや布で拭き取ります。ディレイラーのプーリーもパーツクリーナーで汚れを落としたあと、軸部分に潤滑スプレーなどで注油します。
メンテナンスのポイント
- チェーンの掃除と注油はワンセットでおこないましょう。掃除だけ、注油だけはNG
- チェーンの注油には防錆スプレーはNG。専用オイルを使用しましょう
- 雨天走行後は、できるだけすぐにメンテナンスをおこないましょう
少しの気遣いで快適に乗れる
変速がうまくいかない自転車に乗ることは、ストレスになるばかりか、重大なメカトラブルの原因となる可能性があります。日頃の確認とメンテナンスを行っていれば、小さな不調も発見しやすく、トラブルを未然に防ぐことにもつながります。大切な相棒と長く付き合うためにも、点検と清掃、注油は定期的におこないましょう。
出典:筆者